M・M(1)
ラララーララ…
久しぶりの晴天に、ティテラの海は静かな波音を奏で、入り江から聞こえてくる甘声に波音を合わせようとしていた。美しく響き合う二つの歌声が波に乗って地平線の果てまで流れていく。
(きもちいい)
ティテラの入り江に一人で立つ少女は風になったように気持ちよく歌っていた。
ここのところ激しい雨が続き海が荒れ、歌えなかったせいかいつも以上に彼女の顔は輝いていた。
バシャンッ
少女の後ろの方から大きな水しぶきの音がした。美しいハーモニーは静かな波音を大きく揺らしたその音のせいで途切れてしまった。
(せっかく気持ちよかったのに…)
少女は頬をふくらし、音の原因を確かめてやろうと音のした岩場に近づいていった。
どうせ、大きい魚が潮が引いたときに取り残されてはねたのだろうと、少女はそっと岩の向こうをのぞいてみた。岩の向こうには大きな青く透き通った鰭が見える。
(ほら、やっぱり)
正体が分かったら怖くはない。少女は岩陰から身を乗り出した。
「わぁ、大きなさか…な…。きゃっ!?」
少女の声が驚きの悲鳴として入り江に響いた。
少女はすっかり腰を抜かしてその場に座り込んでしまった。そして少女は目の前の謎の生き物に目を見張った。
「ああ、とうとう見つかったか。」
海のように深く青い色の鱗にさっきの大きなきれいな鰭の下半身、たくましい男性の上半身に鱗と同じ色の髪をもつ見たことのない生命体。少女に笑いかけたその瞳には優しいアクアマリンの輝きが宿っていた。
これ、いや、彼は何者なのか。少女は混乱した頭を何とか動かし、あるものに思い当たった。
「あなた…人魚なの?」
驚いている少女の口から漏れたことば…
人魚とは海の底よりもっと深いところに住んでいるという半分人であり、半分が魚である不思議な生き物だ。昔の文献に時々出てきて記録は残ってはいるのだが、ほとんど伝説上の生き物として扱われてきた。
その人魚が今少女の目の前にいるのだ。しかも、少女に向かって微笑みかけている。
しかし、いつのまにか不思議と少女は落ち着きを取り戻していた。彼の姿が美しさに圧倒されたからなのか、とにかく落ち着いていた。
「ごめん。驚かしてしまったね。」
彼の笑顔はまぶしかった。神秘的な瞳から彼の明るく優しい部分が少女にまっすぐに伝わってくるかのようだ。
自然と少女の頬は紅くなってしまった。
「う、ううん。大丈夫…。でも、ほんとに人魚だなんて…。」
少女はしばらく『人魚』をまじまじと見ていたが、何か思いついたのか不思議そうに彼の顔を見つめた。
「ねぇ、あなたここで何してるの?人魚って深い海の底に住んでるんでしょ。わざわざ地上まで
何しに来たの?」
少女の黒く澄んだ瞳が人魚の瞳を捕らえて放さない。
人魚は頬を紅くし照れくさそうに頭をかいた。
「…ちょうど一年くらい前になるかな。水面近くを泳いでると、この入り江から歌が聞こえたんだ。あんまり綺麗な声だったから…。」
人魚は言葉に詰まり更に紅くなってしまった。
少女もつられて更に頬を染めた。だが、目と目だけは見つめ合ったままだった。
波の音が静かに流れる。
お互いに見つめ合ったまま顔を赤く染めて、少女はおかしくなってしまった。
「ふふ、うれしい。」
少女の笑顔がその場を和ませた。
「俺、カリファ。…君の名前は?」
「私はユリア。」
「ユリア…。ユリア、また会ってくれる?」
「ええ、よろこんで。」
カーン カーン
がけの上の屋敷の鐘が入り江に鳴り響く。不思議な時間は一気に現実の時間へと流れ始めた。
「もう行かなきゃ。」
ユリアは急いで屋敷へ走っていこうとしたが、カリファがとっさに手をつかんで引き留めてしまった。
つながれたカリファの手は温かかった。ユリアは一瞬ためらったが、不安そうなカリファの顔を見て、カリファの手をやさしくにぎりかえしてやった。
「必ず、明日も来るから…ね?」
「…ああ。」
ユリアは優しい笑顔を残して去っていった。
もう空の太陽は傾きかけている。
(あつい。)
残された人魚も水しぶきを上げ海の中へと消えていった。
午後の日差しはさらに暑くなった。
久しぶりの晴天に、ティテラの海は静かな波音を奏で、入り江から聞こえてくる甘声に波音を合わせようとしていた。美しく響き合う二つの歌声が波に乗って地平線の果てまで流れていく。
(きもちいい)
ティテラの入り江に一人で立つ少女は風になったように気持ちよく歌っていた。
ここのところ激しい雨が続き海が荒れ、歌えなかったせいかいつも以上に彼女の顔は輝いていた。
バシャンッ
少女の後ろの方から大きな水しぶきの音がした。美しいハーモニーは静かな波音を大きく揺らしたその音のせいで途切れてしまった。
(せっかく気持ちよかったのに…)
少女は頬をふくらし、音の原因を確かめてやろうと音のした岩場に近づいていった。
どうせ、大きい魚が潮が引いたときに取り残されてはねたのだろうと、少女はそっと岩の向こうをのぞいてみた。岩の向こうには大きな青く透き通った鰭が見える。
(ほら、やっぱり)
正体が分かったら怖くはない。少女は岩陰から身を乗り出した。
「わぁ、大きなさか…な…。きゃっ!?」
少女の声が驚きの悲鳴として入り江に響いた。
少女はすっかり腰を抜かしてその場に座り込んでしまった。そして少女は目の前の謎の生き物に目を見張った。
「ああ、とうとう見つかったか。」
海のように深く青い色の鱗にさっきの大きなきれいな鰭の下半身、たくましい男性の上半身に鱗と同じ色の髪をもつ見たことのない生命体。少女に笑いかけたその瞳には優しいアクアマリンの輝きが宿っていた。
これ、いや、彼は何者なのか。少女は混乱した頭を何とか動かし、あるものに思い当たった。
「あなた…人魚なの?」
驚いている少女の口から漏れたことば…
人魚とは海の底よりもっと深いところに住んでいるという半分人であり、半分が魚である不思議な生き物だ。昔の文献に時々出てきて記録は残ってはいるのだが、ほとんど伝説上の生き物として扱われてきた。
その人魚が今少女の目の前にいるのだ。しかも、少女に向かって微笑みかけている。
しかし、いつのまにか不思議と少女は落ち着きを取り戻していた。彼の姿が美しさに圧倒されたからなのか、とにかく落ち着いていた。
「ごめん。驚かしてしまったね。」
彼の笑顔はまぶしかった。神秘的な瞳から彼の明るく優しい部分が少女にまっすぐに伝わってくるかのようだ。
自然と少女の頬は紅くなってしまった。
「う、ううん。大丈夫…。でも、ほんとに人魚だなんて…。」
少女はしばらく『人魚』をまじまじと見ていたが、何か思いついたのか不思議そうに彼の顔を見つめた。
「ねぇ、あなたここで何してるの?人魚って深い海の底に住んでるんでしょ。わざわざ地上まで
何しに来たの?」
少女の黒く澄んだ瞳が人魚の瞳を捕らえて放さない。
人魚は頬を紅くし照れくさそうに頭をかいた。
「…ちょうど一年くらい前になるかな。水面近くを泳いでると、この入り江から歌が聞こえたんだ。あんまり綺麗な声だったから…。」
人魚は言葉に詰まり更に紅くなってしまった。
少女もつられて更に頬を染めた。だが、目と目だけは見つめ合ったままだった。
波の音が静かに流れる。
お互いに見つめ合ったまま顔を赤く染めて、少女はおかしくなってしまった。
「ふふ、うれしい。」
少女の笑顔がその場を和ませた。
「俺、カリファ。…君の名前は?」
「私はユリア。」
「ユリア…。ユリア、また会ってくれる?」
「ええ、よろこんで。」
カーン カーン
がけの上の屋敷の鐘が入り江に鳴り響く。不思議な時間は一気に現実の時間へと流れ始めた。
「もう行かなきゃ。」
ユリアは急いで屋敷へ走っていこうとしたが、カリファがとっさに手をつかんで引き留めてしまった。
つながれたカリファの手は温かかった。ユリアは一瞬ためらったが、不安そうなカリファの顔を見て、カリファの手をやさしくにぎりかえしてやった。
「必ず、明日も来るから…ね?」
「…ああ。」
ユリアは優しい笑顔を残して去っていった。
もう空の太陽は傾きかけている。
(あつい。)
残された人魚も水しぶきを上げ海の中へと消えていった。
午後の日差しはさらに暑くなった。

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